からだ全体の観察から動きのある性の学習へ
庄子 晶子 Shoji Akiko
小学校教諭
 
 
 ■1枚の写真が投げかけたもの
 

 トイレ探検の結果の発表後、前述したように自分たちの疑問を整理しました。そして、先生が見てきたトイレということで、東京ウイメンズプラザのトイレの表示の写真を見せました。
 自分たちが見てきたトイレとかなり違うことに興味を持ったようでした。マークからはどんな人たちが使えるトイレなのかはすぐにわかったようですが、予想どおり「女性・男性を問わず ご利用いただけます。」には首をかしげる子ばかりでした。
 その中でたった一人、「障害を持った人の助けをする人が同性ではなかった場合、そう書いてあると入りやすいのかもしれない」と答えた子がいました。私も見逃していたことだったので、なるほどと納得。みんなで「そうだね」と確認し、「実はこの表示をつけてほしいとお願いした人たちがいます」と本題につなげました。

【簡単な授業の流れ その2】

学習内容 指導上の留意点、資料
・トイレ探検の結果の発表
・先生が見てきたトイレ。
・トイレの表示をよく見て気がついたことを発表しよう。
からだの不自由な人
お年寄り
小さい子を連れた人
・「女性・男性を問わず ご利用いただけます。」
は、なぜついているのだろう。

・観点
 マーク
 工夫
・ウイメンズプラザのトイレの写真

・この表示をつけてほしいとお願いした人たちの存在を知ろう。
・性同一性障害について。
・要望書の一部を紹介する。
心の性(自分をどの性に属すると思うか)と戸籍上の性が違う人がいることを知り、その人たちの悩みの一つとしてのトイレを考える。
・インターセックスについて
・感想 もっと知りたいことを書く。
・男の子とも女の子とも判断できない外性器を持って生まれてくる子どもがいるという事実を知る。
・新たな課題を探る。
 
 ■性同一性障害、インターセックスって何だろう
 

 性同一性障害については、次のような話をしました。
「みなさんの性別は何ですか?」
「いつ決まったのですか?」
「何で区別しているのですか?」
「このトイレの表示をつけてほしいとお願いした人たちは、自分が思っている自分の性(男とか女とか)と戸籍上の性(性器による性=からだの性)が違っている人たちです」
「その人たちのお願いの文の一部を読むので聞いてください」
「いくつか条件はありますが、手術によって自分の望む性の性器に変えること(性転換)は認められました。でも、戸籍上の性を変えることは、今の段階ではできません。法律が認めていないからです」
「性器を変える手術はしなくてもいいけれど、自分が思っている性を戸籍上も認めてほしい、それが可能なように法律を変えてほしいと願う人もいます。
 例えば、性器は男でも自分は女だと思っている人は、女性の服装や化粧で生活したりしていますが、戸籍上の性別は男なので、不便なことや苦痛を感じることがいろいろあるからです。
 例えば、海外旅行をするときにはパスポートが必要ですが、戸籍上の性が男の場合、パスポートに記されている性別も男です。その人が女性の化粧をし、女装をしていたら、出入国検査のときどうなるでしょう」

 インターセックスについては、「生まれたときに、男か女か性別を決められない外性器を持っている人たちです。その人たちの多くが、医者の判断により戸籍上の性を決められてしまいます」ということを話しました。
 いずれの場合も、子どもたちとやりとりをしながらできるだけ正しく、やさしく語ることを心がけました。
 男、女という二つの性しか知らない子どもたちにとっては、どちらの存在も驚きであり、そういう人たちがどのように生きているかは、虎井まさ衛さん、橋本秀雄さんのことを紹介しながら説明しました。
 もちろん、こんな簡単なことで性同一性障害やインターセックスを語り尽くせるものではありませんが、ほとんどの子どもたちが存在そのものを知りません。知らないことを初めて知ったときは、興味・関心が広がるのは当然で、はじめは興味本位ではあっても、当事者の書いた文章を読んだり、VTRを見たりするなかで深い理解につながっていきます。

 このときには実践できなかったのですが、許される範囲で手紙を書く、問い合わせをするなどの広がりも大切なことだと思います。
 私も、“人間と性”教育研究協議会(性教協)の活動を通じてさまざまな方にお会いし、話を聞き、本を読み、共に語り合うなかで理解を深めてきたわけで、本当に理解することは簡単ではないと思います。
 ただ、子どもたちというのは、大人より柔軟で偏見も少なく、たった1時間の授業のなかで学習しただけでも、次のようなかなり鋭い疑問を投げかける子もいました。
 「なぜ医者が勝手に性別を決めてしまうのか。絶対にだめだと思う」
 「手術で自分の望む性に変えた後、戸籍上の性を変更できないのはなぜだろう」
 だからこそ、「総合的な学習」のなかでも「性同一性障害とは」「インターセックスとは」などにつついてのきちっとした授業=子どもにわかる言葉での、要点を押さえた語りかけによる授業は必要です。しかし、子どもにわかる言葉での、要点を押さえた語りかけなしにやってしまうと、子どもたちは「糸の切れた凧」状態になってしまいます。

 そして忘れてならないのは、子どもたちの中に当事者がいるという前提を常に教師が持つことです。“あなたはちっともおかしくないよ”という無言のメッセージを常に持っていることは、当事者がいる・いないに関わらず大事なことです。
 当事者の話を聞くと、かなり年齢の低い段階から、自分のからだや性別に違和感を持っています。ですから、小学校段階での学習で“自分はおかしくない。これでいいんだ”と思えるメッセージが届くことで、どれだけ気持ちが楽になるか十分に想像できると思います。そういう人は少ない・いないというのではなく、自分はひょっとしたらそうかもしれないと思い悩む子どもたちが、そっと相談に来られるようなメッセージを届けることを常に心がけておく必要があると思います。
 また、性同一性障害の子を主人公とした映画「ぼくのばら色の人生」を試聴するだけでも、きっといろいろなメッセージが子どもたちに届くと思います。実際、その映画をクラス全員で見たときに、涙を流しながら見ていた子がいたという報告も聞いています。

 
 ■「総合的な学習」としての深まりを探る

 この取り組みを実際に行ったときは、「総合的な学習の時間」が確保されていない段階でした。したがって、十分な時間が保障されていないため、次のように、家庭科の「住まい方の学習」の延長で2時間、保健体育の時間で1時間行いました。

☆トイレについて→トイレ探検をしよう。……1時間
☆トイレ探検の結果の発表→1枚の写真から……1時間
(性同一性障害、インターセックスについて)
☆もっと知りたいこと……1時間


 完全実施のなかではもっと十分な時間をかけ、広がりを持った内容に発展させいくことが可能だと思います。

☆トイレの何について調べるのか。
☆自分たちの調べたことから見えてくる課題は何か。


 これらについても、十分な時間をとるとより深い学習になると思います。
 さまざまな性の学習は、教師の側が投げかけない限り、子どもたちから課題として出てくることはほとんど考えられません。特に、性的マイノリティーについては存在そのものを知らないわけですから、「総合的な学習」とは言っても、基本的な学習なしに発展はあり得ません。より深い理解と発展のための基本的な学習、課題追及のための調べ学習、この二つを1セットとして進めていくことがキーポイントとなります。
 子どもたちの調べ学習として実際にやったことは、トイレ探検だけですが、トイレ探検の後、性同一性障害やインターセックスなどの学習をし、子どもたちから課題を出させていくなかで取り組ませたいこととしては、次のようなことがあると思います。

1性器について
 いままでの授業であれば、外性器、内性器の学習は、教師が用意した図やプリントで終わりになっていたと思います。時間が確保されるなら、自分たちで調べ、図にかき、説明するという過程をとおして、単に上から与えられた知識ではない、自分たち自身のものとして残っていくことでしょう。
 特に、インターセックスを理解する上では、胎児の段階で男女の性器が分化していくことを調べていけば、どちらにも当てはまらない性器の存在が自然な形で理解できると思います。
 違いを強調する学習ではなく、同じところ、似ているところを見つけていくことにポイントを置いた性器の学習を、子どもたち自身の手でつくり上げていけると思います。そして、子どもたちなら、調べたことを発表するときに、ペープサートにしたり、紙芝居にしたり、文字にするだけにとどまらない、ほかの人の理解が深まるユニークな方法を考え出すことでしょう。

2男女二分法にとらわれた生活を問い直す
「なぜ、トイレの男女別を示すマークの色や形が限定されているのか」
「なぜ、女性用トイレにしかオムツ替え用のベッドがないのだろうか」
 トイレ探検から出てきたこれらの疑問から出発して、ジェンダーの問題にも広げていけそうです。いままであたりまえと思っていたこと(男はめそめそするな、女だから手伝いなさい、女のくせに、男のくせに、男は黒、女は赤……)が、本当にそうかな、おかしいんじゃないかなと考えるきっかけになっていくはずです。

3理想的なトイレを設計しよう
 いろいろな人が使いやすいトイレを設計してみる学習です。さまざまな性の人も、障害のある人も、子どもを連れた人も、お年寄りも、誰が使っても快適と思える理想のトイレれを考え、絵にしてみるという活動をとおして、自分の学んだことを形に表すことができます。
 暗い、汚い、くさいなど、学校のトイレは快適な場所とはとても言い難いのが現状です。評判の悪い学校のトイレを、学んだことをもとに設計し、変えていくことができたら本当にすばらしいと思います。
 最後に、今回の学習と性教育カリキュラムとの関係に触れておきます。
 トイレをキーワードにした「総合的な学習」は、次のようにいままでの性教育カリキュラムとさまざまなところで関連づけられています。

事前にしておくべき内容
・性器(低学年→大きくなるからだ、中学年→男女の性別の違い)
・プライバシー(低・中学年→プライベートなからだの部分)
同時に学習していける内容
・さまざまな性(高学年)
・性役割、家族(高学年)


 いままでの性教育の内容を後退させずに、さまざまな内容を取り入れていくことが可能な大きなテーマを設定していくこと、そして、子どもたち自身の疑問や発想を大事にしていくことが、「総合的な学習」の大きな鍵になるのではないでしょうか。

 
※この実践は“小学校の「性と生」の総合学習”(子どもの未来社)からの抜粋です。この本にはその他にもたくさんの素晴らしい実践が紹介されています。ぜひご一読ください。