《9》ふつうは何回ですか? どのくらいのペースで自慰をするのですか?
男子の主な答え 「一日三回」「日課です」「日にもよるし人にもよる。けっこうバラバラ」「週に二回くらいのペース。自慰には個人差がある」「半年に一回」「一日一回でおれは眠くなる。毎日とか月に一回とか、先月は月一回やった。ちょっと最近やる気起こらんのよー」
私の解説 男子の自慰・射精は随意的にできるため、個人差があり、同じ個人でも気分や体調でペースが変わったりすること、女子の月経のように定期制はないことを説明した。
《10》どこでする? 人に見られたらどうする? 何分かかるの?
男子の主な答え 場所は圧倒的に「自分の部屋」が多く、回答してくれた二〇人全員がこの答えであった。声は「出ない」が一三人、「出る」が一人、あとは「わからない」であった。時間は「五分前後」が三人、「一〇分から一五分」が四人、その他は「そのときによる」や「わからない」というものであった。
私の解説 自慰はプライベートな行為であるから、プライバシーが守れる環境が不可欠であり、声は個人差のあること。ここで人権としてのプライバシーを考えるため、男子に「自分の部屋を持っているかどうか」聞いたところ、「防音も十分で持っている」が十人、「一応持っている(障子・ふすまなどで仕切り)」一一人、「兄弟で共有」一人であった。このあたりは新興住宅地や古くからの農家が多いため、比較的自分の部屋の持ち率は高いものと思われる。
次に「部屋にカギがかかるか」聞いたところ、「カギがかかる」は四人のみであった。最後の家族が自分の部屋に入ってくるときの「ノック(確認)」の有無を聞いたところ、「全くノックなし」が七人、「ノックなしのときあり」が八人、「必ずノック」は五人であった。このような結果からも、わが国では貧困な住宅・家屋環境、「性的自立」を配慮しない家族関係などから自慰に必要なプライベートな空間と時間の確保が難しいことを説明した。
さらに男子の自慰は自分の意志でコントロールできるようになるものだから、時間も個人差があったり、個人でもそのときによりまちまちであることを説明した。
《11》学校でなったときはありますか? どんなとき? どうする? 夏服とか透けてるし女の子を見てドキドキするんですか?
男子の主な答え 「ボッキする」「女の子による。学校ではない」「女の子見て、立ってきます。いわゆるボッキですね」「一日に一〇回以上ある。頭のなかでは女を犯しているときそうなる。透けてる女の子は今夜のおかず」「ない」「なるとかならないとかじゃない。女の子の生理とは違う」
私の解説 「学校でなった」というのは、男子の答えにもあったように、自慰・射精と勃起とで解釈が分かれたようだ。「ない」と答えたというある男子に「勃起は?」と聞いたら、「なんだ、そんなんしょっちゅう」という答え、みんなも一様にうなずく。私も「僕も高校生時代はしょっちゅう立っとったよ。あれはホッとした瞬間が多かったから、授業の終わりのベルと同時に勃起して、あいさつで起立・キャーツケができず、当時の先生から『○○! ちゃんと立たんか!』と叱られ、心の中で『もう立っています』と答えていた」と話したら大笑いになった。女子講座には、こんなに素直に答えてくれた男子に敬意を表して、「男子はなんていやらしいんだろう」と軽蔑することのないようにしてほしいと説明し、なぜなら、頭でどう思っていようが行動に表すことは別だし、自慰は、どう想像を動かそうが誰にも迷惑がかからない自己完結型行為であり、男子も男性本位の攻撃的な性情報と実際との違いをこの授業で学んで進歩しているんだからと話した。
《12》自慰って何? 精通って何?
男子の主な答え 自慰については、「オナニー」「快感を得られる」「マスターベーション、自分で精子を出すこと」。遺精については、「エッチな本やビデオをみたとき、勝手に出ること」。多かったのは「わからない」というものであった。
私の解説 自慰というのは「自分で性的快感を得る行為である」が、決していやらしい行為ではなく、自分のからだをいとおしむ「自体愛」であること、遺精は「夢精とは違い、起きていて自分で意図的にしようと思わずに射精すること」と説明した。さらに女子の自慰についても、自分のからだを知り、その主人公となるため、決してマイナス・イメージではとらえてほしくないことを説明した。
《13》自慰をすると記憶力が悪くなってバカになるんですか? 自慰は一日三回は多いですか、また、やってはいけないことですか?
男子の主な答え 「どんどんやりましょう」「はじめからバカでした。三回はしません。どんどんやりましょう」「もともとバカだし、これ以上バカにならない。三回は少ない。やりたきゃやるべきだ」「バカにならないし、一日三回は多くない。夢精になったらかなわん」「多いと思うけど、やっていけなくはない」「たぶんバカになると思う」
私の解説 「もともとバカ」という生徒の答えを呼んでいて無性に腹が立ってきて、「バカだと思っている人間にバカはおらん! 自分は完璧で人より偉いと思うとるような、いまで言えば大蔵省のキャリア官僚なんぞの方がよっぽどバカだ。人間は不完全を自認してこそ個人的にも歴史的にも進歩があるんだ。これを書いた生徒は人間的にそんなやつよりよっぽど上だ」と大きな声で言ってしまった。さらに「自慰の回数の多さを気にする必要はない。先生も一日三回したこともある。でもいま、賢いとは言えないが先生をして、みんなと勉強をともにすることが楽しくてしかたがない」と話した。そのときの男子講座のみんなの顔は本当に真剣な表情をしていた。
《14》いつごろから自慰をするようになりましたか? 一人でしてて、むなしくない?
男子の主な答え 「小五」が一人、「小六」が二人、「中一」が六人、「中二」が六人、「中三」が二人、「わからない」が五人であった。また「むなしい」と答えたものが一八人と多かった。
私の解説 特に、「むなしい」と一八人が答えたことにこだわり、「女の子に聞かれたからセックスのかわりに自慰では寂しいと解釈したんかな」と聞くと、男子講座では多くがうなずいた。そこで「自慰」と「性交」は全く違い、昔から言われる「セックスのかわりにマスかいて辛抱しとけ」という性交の代用としての「自慰」の歴史的な位置づけは誤りであると話した。同時に、射精のあとの虚脱感については、「むなしく」思う必要のまったくないことを話し、「僕もセックスする相手がいても自慰をしていたよ」と話した。
《15》SEXしたとき女は痛いけど男は痛くないの? SEXと自慰では快感が違うの?
男子の主な答え 「(経験ないから)わからない」が十三人、「(たぶん)痛くない」が五人、「痛いときもあるよ」が五人、その他無回答であった。快感の違いは「違う(であろう)が六人、あとは「わからない」と無回答であった。
私の解説 男性の亀頭は感覚の鋭い部分で傷つきやすいから、ハードなセックスでは痛くなることもあるが、一般的には男子は最初から苦痛はない。それどころか射精があれば最初から絶頂感まである。女子は個人差があるが、多くは最初から快感を伴わない。特に相手が挿入・ハードな性行為・射精にこだわればなおさらである。この点は女子にとっては本当に損である。だからこそ女子は自分の意志と感覚をはっきり言い、不必要に痛みを我慢することのないよう、男子は相手に聞くことで、無理をせず、挿入だけにこだわらない、より苦痛を和らげ相手を思いやるコミュニケーションが必要であると説明した。
《16》男の人とHしたいなーと思ったことはありますか?
男子の主な答え この質問に関しては、全員がニュアンスの違いはあるものの「思ったことはない」というものであった。
私の解説 この問題は興味本位で考えてほしくないことをまず話し、一般的に同性愛指向の人の率は、四%とも一〇%とも言われるから、この男子講座でも当然いてもおかしくないし、私はいるつもりで授業をしている。にもかかわらず、全員が「思ったことはない」というのはなぜか考えてほしいと話した。その理由として、異性愛が当然という刷り込みからまだ自分の性的指向に気づいていない場合と、「差別」や「嘲笑」の的になる社会の状況から自分の性的指向を偽っている場合がある。わが国では「両性間の、結婚をした、生殖のための性行為」だけはマジョリティとして認められ、他のマイノリティの性は無視されたり迫害されたりした歴史があるが、マイノリティの性的自由」は人権として不可欠であることを説明し、将来その自由が当たり前になる「共生」の社会を築いていくことが必要だと説明した。
現在、わが国において両性間の交流は本当に難しくされている。顧問をしているクラブのOBで「先生、やれる女の子紹介して」というのが口癖の若者がいる。彼の生活は「毎日、夜の一二時まで仕事や」という。今年、いわゆる一流といわれる企業に就職したOBも「夜一〇時に帰って朝は六時半に出ます」と語る。
授業でも両性どちらもの講座に不特定の異性との交流を聞いてみると、「よく交流する」が、女〇人・男一人、「普通に交流」が、女一三人・男五人、「あまり交流しない」が、女一三人・男一二人、「まったく交流しない」が女六人・男四人であった。さらに、読む雑誌などにも大きな違いがある。まさに社会的に両性が豊にコミュニケーションする時間や機会がいかに奪われているかがわかる。この授業実践がその両性の壁を少しでも取り払い、交流の扉を開くきっかけになってくれればと願っているが……。