性教育ニュース 【03/01/21】
「産経新聞の事実をねじ曲げた記事に対する抗議文」

 
 

産経新聞社御中

2003年1月10日

産経新聞の事実をねじ曲げた記事に対する抗議文

 貴紙の「教育を考える」コーナーには、性教育の実践に対する、特定の立場からの批判記事が連載されていますが、特に2002年12月16日付「教育を考える」シリーズの記事(渡辺浩・署名記事)は、私ども民間教育研究団体である「“人間と性”教育研究協議会」(以下、性教協と略記)に対する誹謗と中傷にみちたものであります。これまで20年にわたり、細々ながらわが国の子どもたちの未来のために努力を続けてきた私どもとしては、これは看過できない内容であると考え、ここに強い憤りをもって抗議するとともに訂正記事の掲載を求めるものです。

1)まず私ども性教協は、組織的に山本宣治を「支持」することを確認したことは一度もありません。性教育のパイオニアとしての山本宣治を歴史研究の対象として取り上げてきましたが、特定個人を崇拝し、「支持」するなどという事実は全くありません。そもそも教育研究団体が、個人に収斂されるような研究方針を持つなどということはありえないことです。
 研究の対象としての山本宣治は、「共産主義者」としてのそれではなく、性教育の理論家・実践者としての山本宣治なのです。またかつての性教協の中心メンバーが歴史的な人物のひとつの側面に光をあてて業績を研究したことを「左翼思想に基づく過激な“自己決定権教育”」にまで結びつけるという手法はあまりにも悪意にみちたこじつけであり、論理のトリックとしか言いようがありません。
 しかももはや本人自身が反論できない故人の文章の片言隻句を恣意的につまみ出して現在の性教協を攻撃するなど、新聞社および新聞記者としての取材姿勢のあり方とその見識が疑われる問題ではないでしょうか。
 
2)次にその「私の性器だから、自分がどう使おうと自由です。…いつ、誰と、どうやって使うかも自由です」という引用についてですが、出典も明示されていない、意図的な作文となっています。記事中の「  」の部分が故・山本直英の文章の引用であるとすれば、全く不正確です。
 故人の名誉のために記しておきますが山本は、『セクシュアル・ライツ』(明石書店、1997年)のなかで「中高生だって『いつ、どこで、誰と』キスや性交をするのかは、その本人と相手が決めることで、親も教師も立ち入れない時間と空間が選ばれている」のであり「性行動こそ個人や当事者が責任をもって自己決定するしかない唯一の行為になります」。したがって「自己決定力の未熟な子どもや障害者にも、自己の性器の主人公として、そのような権利の主体者になる方向に向かって、エンパワーメントすること」(34〜35頁)が必要なのであり、「性の学習は、体が成熟する思春期までの教育課程で保障されなければなりません」(20頁)といっているのです。
 もうひとつ、山本直英・高柳美知子監修の中学生用の副読本『おとなに近づく日々』(東京書籍)から引用をしておきましょう。「あなたがたが、いつ、だれと、性交するかは、親や教師が決めることではなく、あなた自身がしっかりと考えて決めることです。……どうか、興味本位や欲望のまま走らず、大切なテーマとして考えてみてください」(33頁)。
 こうした文章を読めば、性行為を子どもの「自由」のままにさせるなどと無責任な放任主義のように描くことが全く事実に反することは明らかです。子どもたちの現実を踏まえて、必要な性的自己決定力をいかにはぐくむかがいま求められていることを主張しているのは明白ではありませんか。
 今後、貴社および新聞記者として事実と現実に基づき、記事を書かれることをあらためて切に望むものです。

3)「性教協の影響」という文脈のなかで「性道徳の指導を抜きに、避妊の知識と技術を教えるだけの“コンドーム教育”も全国に広がっている」という件(くだり)も全く事実に反します。記事のリードの部分にある「日本では、性行動の低年齢化という現状を追認するだけの“コンドーム教育”」が行われているという評価も何を根拠にして記事が書かれているのでしょうか。
 高校3年生ともなれば、性交体験率は女子が45.6%、男子が37.3%、中学3年生では女子が9.1%、男子で12.3%となっています。また避妊の実行率をみますと、高校3年生の女子では「いつも避妊をする」は21.9%(2002年)で、93年45.2%、96年の29.2%、99年23.3%と年々実行率は低下しているのが現状です(東京都性教育研究会編『2002年調査 児童・生徒の性』学校図書、2002年)。ところが残念ながら、実際には避妊についてしっかり考えさせ学ばせる教育が全国に広がっているという現状ではありません。むしろ避妊の知識もなく、無防備なまま子どもたちは半ばせかされるように性行動をしているのが現実なのです。
 もちろん避妊のテーマについて、コンドームや他の方法を含めて学校現場を中心に真摯な実践を展開しているところがあることも事実です。記事にある「性道徳」の内容に関しては具体的に書いてありませんが、避妊を実行するためには相手への思いやりが大切ですし、自らと相手の人権を尊重し、望まない妊娠を避けるための基礎知識とスキルが必要と私たちは考えています。コンドームさえ使えないままに、性交をしている現実こそ問題ではないでしょうか。
 渡辺浩記者は、「全国に広がっている」“コンドーム教育”の現場に一体どれだけ足を踏み込んで、取材をし、記事を書いているのでしょうか。新聞記者としての基本的姿勢が問われる問題なのではないでしょうか。

4)「日本では急進的性教育の蔓延などで性感染症や妊娠が増えている」という高橋史朗・明星大学教授のコメントですが、そうした内容はどのように証明されているのでしょうか。従来の氏の主張からすれば、「急進的性教育」は性教協のことを指していると考えられますが、「蔓延」などという状況の理解は何に基づいてコメントされているのでしょうか。また「急進的性教育の蔓延」がどのように性感染症や妊娠の増加とつながっているというのでしょうか。私たちだけでなく、性教育・保健・医療関係者で、性感染症や妊娠の増加についてそのような分析をしている人はほとんどいないと思われます。全く特異な立場からの発言であることを貴社はご存じなのでしょうか。
 すでにおわかりと思いますが、高橋史朗・明星大学教授は、これまで統一協会系ダミー団体(たとえば、世界女性平和連合、東西南北統一運動国民連合など)で、講演と執筆を精力的に行なってきた人物です。そのことを承知の上で、コメントを掲載しているのでしたら、『産経新聞』の見識が疑われる問題です。
 氏が統一協会の新純潔教育路線の忠実な協力者であったことは、浅井春夫編著『時代と子どものニーズに応える性教育――統一協会の「新純潔教育」総批判』(あゆみ出版、1993年)の拙稿「子どもたちに何を語りたいのですか――高橋史朗氏の「性教育」論批判」および「高橋史朗氏の『第三の性教育』批判」(『ヒューマン・セクシュアリティ』16号、1994年8月)で、高橋氏の協力者ぶりについて事実をもって明らかにしています。また1992年からはじめられた科学と人権を柱とした性教育への攻撃に対しても“人間と性”教育研究協議会代表幹事会編『統一協会 ボディコントロールの恐怖』(かもがわ出版、1997年)で、基本的な反論はしていますので、あらためてお読みください。
 今後、私どもに対して誹謗・中傷するような記事の掲載が続くようであれば、重大な決意でことに臨むことをお伝えしておきます。以上の内容について、真摯に検討をされ、紙面の改善をされることを強く訴えるものであります。
 上記の抗議文への見解と訂正記事の掲載に関して、1月末までに返答を求めるものです。

 なお今回は、私たちの性教協への不当な非難・中傷に対しての抗議に限定していますが、貴紙の12月9日付『ニューズウィーク』(米国版)の紹介のしかたに関しても到底フェアとはいえない内容と考えています。ブッシュ政権のすすめる禁欲主義教育(「結婚までセックスしてはいけない」という)の推進のため巨額の予算をつぎ込むことに対して論争が起きていることを紹介した記事を、禁欲主義教育こそ正しいという方向に読者を誘導するため利用しているとしか読み取れません。これは公正を旨とする新聞の使命を放棄するに等しい姿勢ではないでしょうか。
 産経新聞社が社会の公器としての使命を果たされることを心より望むものです。

“人間と性”教育研究協議会
代表幹事 浅井春夫・村瀬幸浩

 
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