性教育ニュース 【03/02/11】
アメリカの禁欲主義教育とわが国の性をめぐる諸問題
【マス=メディアを対象としたセミナー(1月23日開催)】から

 
  ・アメリカの禁欲主義教育とわが国の性をめぐる諸問題
−マス=メディアを対象としたセミナーから− 幹事 鈴木正弘

 右派メディアによる男女共同参画やジェンダーフリー教育への反動的攻撃が続いている。『産経新聞』や『週刊新潮』などでは性教協への悪質な中傷も行われた。これに対抗して、性教協では、両誌に対し抗議文を突きつけるとともに、家族計画協会や家族計画国際協力財団、NPO法人ぷれいす東京と連携して、メディアに対する啓蒙的セミナーを1月23日に実施した。報告者には家族計画国際協力財団事務局次長の石井澄江氏、性教協から村瀬幸浩代表幹事、ぷれいす東京からは池上千寿子氏が顔を揃え、各々の立場からの情勢報告を行いメディア各誌の理解と協力を求めた。
 出席したメディアは、朝日・読売・毎日・産経・日経・中日・東京の大手新聞社のほか、赤旗、NHK、共同通信、SPA、週刊ポスト、教育家庭新聞、各種出版社、フリージャーナリスト、医薬系業界各誌など多種にわり、40名ほどの集会となった。
 主催者を代表して、家族計画協会会長の松本清一氏が挨拶に立ち、10代女性の中絶がこの10年で倍増した現実を踏まえ、単なる知識修得だけではなく、責任ある性行動を選択し得るセクシュアリティ教育の必要性を訴え、会は開幕した。

 

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・アメリカにいま何が起こっているか [石井澄江]

 石井澄江氏は昨年12月にタイのバンコクで開かれた第5回アジア太平洋人口会議に政府代表団顧問として参加した。この会議は、国連が10年の一度の割合で開く国際人口開発会議に先立ち開催される地域会議の一つである。1994年のカイロ国際人口開発会議で合意を得たリプロダクティブヘルス/ライツの進捗状況を検証するために、アジア・太平洋諸国を一堂に会し開催された。
 この会議では、アメリカ・ブッシュ政権の反動的な姿勢が露わとなり、各国代表団を唖然とさせる事態となった。もともと国内の宗教的保守派(プロライフ派)を支持基盤とするブッシュ政権は、大統領就任当初より、「人工妊娠中絶に直接または間接的に関わる活動をしている団体には政府は1セントもお金を払わない」「文句をいう団体はその口を閉ざさせる」という方針をメキシコシティーで発表していた。この考えが、アジア太平洋人口会議でも露骨に示され、リプロダクティブヘルス/ライツに正面から反対し、会議を混乱に陥れた。国際的に承認されていたはずのカイロ行動計画を反故にし、国連の正式文書からリプロダクティブヘルス/ライツの文言を削除しようとしたため、各国代表団と全てのNGO諸団体の猛反発を受けることになった。
アメリカの言い分は、「リプロダクティブヘルス/ライツは中絶を推進する言葉であるから反対する」というものだが、これはアメリカの勝手な解釈に過ぎない。むしろカイロ行動計画では、「いかなる場合にも妊娠中絶は家族計画の方法として推進されてはならない」と明記されており、アメリカは正式文書に書かれていない文言を勝手にでっち上げて、自分たちの主張を通そうとする理不尽な対応をとった。
 アメリカのこうした姿勢に日本政府が応じないようにするために、国内のNGO44団体と超党派の女性国会議員48名が連名で政府代表団に対して出発前に強く要望していた。このため、日本はカイロ行動計画の支持を表明するにいたった。会議でもアジアの全ての国が、それこそイスラム諸国から旧ソ連圏の国々も含めてアメリカの強引な価値観の押しつけに反発し、その後の公式文書でも、アメリカ一ヵ国だけが反対し続けたことが明記された内容となった。ブッシュ政権の破壊的な政策はカイロ会議や北京女性会議などの成果を踏みにじるものでり、警戒が必要である。

 

・性的自己決定力を育てる教育と禁欲主義教育[村瀬幸浩]

 代表幹事の村瀬氏からは、性教協の立場と最近のバッシングの背景について報告された。
 性教協は、「科学・人権・自立・共生」を基本理念として設立された民間教育研究団体であり、官制の組織ではない。子どもたちに、性的自己決定力をつけるために努力している実践者団体だ。
 ブッシュ政権の禁欲主義の方針と少数者の排除の傾向は、ピューリタニズムの伝統がアメリカに復活したことを示している。しかし、文化的土壌の違うはずの日本にも、その影響は出てきている。それは、女性の自己決定を押さえつけ、女性の性的主体性を忌み嫌う男権意識となって現れている。『ラブ&ボディ』の回収理由はピルに対する異常なこだわりが原因であったし、昨今のジェンターフリー教育や男女共同参画社会への敵対意識、援交少女への罰則規定などの一連のバックラッシュの動きは、まさに明治以来の男権主義の復活と言うべきである。  
 性教協は、他者の自己決定権の尊重を踏まえた性的自己決定力の育成を目指すものであり、「性交推進教育」だの「自分勝手な性行動を奨励する」などという右派メディアの批判は中傷でしかない。しかも、『産経新聞』や『週刊新潮』は、判で押したかのように高橋史朗氏という統一協会系学者の文章やインタビューから記事を構成しており、メディアとしての取材姿勢も貧困である。

 

・禁欲・純潔の強調でなぜHIV/STIは防げないか[池上千寿子]

 ぷれいす東京で、HIV関連のケアと予防活動ににあたる池上氏からは、禁欲主義教育ではHIV/STIは防げないことが資料を使って報告された。
 禁欲主義については、すでに世界各国で過去に実践済みで、結局は何の効果ももたらさなかったし、HIVが減少したとの報告も一切ない。むしろ、望まない妊娠が増加し、悪しき結果だけが残ってきた。性行動に影響を与えうるのは、建前やモラルを頭ごなしに力説することではなく、理論的なプログラムに従った学習だけである。実質的な行動変容こそが大切であるのに、禁欲主義教育ではその機会も奪われてしまう。宗教的情熱だけで動くブッシュ政権はこの点で大きな誤りを犯している。
昨今の中絶率の増加やSTDの広がりは、メディアの影響が極めて大きい。AVだけではなく、日常的なテレビも含まれている。最近5年間の高視聴率番組を分析するとわかるが、恋愛至上主義とも言うべき内容ばかりで、避妊については1%、HIVは0.3%しか触れられていない。「愛さえあればウィルスも来ない」式の番組構成である。大学生の意識調査をしても認識が甘く憂慮すべき事態となっている。

 

 この後出席記者から質疑応答が行われたが、紙面の関係で割愛させていただく。なお3氏の詳細な発言内容と質疑応答については、3月にエイデル研究所から緊急出版されるブックレットに掲載される。ぜひとも購入されて、情勢の把握と反動的言辞に対する対抗手段の一助として欲しい。ブックレットの詳細については、後日掲載する。

 
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