私たちは、「第26期東京都青少年問題協議会答申」に基づいた条例化に対する意見を表明するものである。
まず本答申が昨年11月2日の諮問を受けて、本年1月24日に答申されるという、きわめて短期間の論議で結論と方向が出され、2月下旬の定例都議会には青少年健全育成条例改正案を提出することになっており、“はじめに結論ありき“というべき協議会であったといわざるをえない。広範かつ多様な意見の交換を踏まえて、基本的な施策方向について時間をかけて検討していくことは、東京都および青少年問題協議会のあり方として問われていたのだが、拙速に強引な結論を導き出しているという感は免れない。
たとえば「有害情報」の規定、インターネットプロバイダーに対する規制は条例化が必要な事項であるのか、保護者に子どもの性行動に対して責任を持つことを条例という形で盛り込むことが必要かつ有効であるのか、などの検討が深くなされるべきである。またすでに法制化されている児童買春・ポルノ禁止法、児童虐待防止法、児童福祉法などの法規制で対応することが十分可能であり、条例を制定する必要があるとはいえない。結果的に二重の法規制になるという問題もあり、条例制定の必要性があるとは私たちは考えない。
青少年問題協議会への諮問は、「1 インターネット・携帯電話からの有害情報に対する効果的な対策」「2 青少年の性に対する関わり方」「3 青少年に対する保護者の養育のあり方」という内容で、このうち「1 有害情報に対する効果的な対策」に関する条例制定が検討されることはありうるとしても、2および3の諮問内容である指導のあり方や親子関係などは条例によって規制するような問題ではないと考える。
私たちが条例制定に反対する理由の第1は、過去の同協議会の方針が誠実に実行されたのかどうかの総括が不問に付されていることである。青少年の性をめぐる問題は、年々深刻になっているその現状にはふれられているが、そうした現実を生み出す要因の分析はきわめて不十分である。その点の論証抜きに条例制定に強引に結論づけている論理の飛躍があるといわざるをえない。
「東京都健全な青少年の育成に関する条例」第18条の4で「都は、青少年の性に関する健全な判断能力の育成を図るため、普及啓発、教育、相談等の施策の推進に努めるものとする」と規定されており、過去にそれがどこまで実行され、何が課題として残されたのかについて総括すべきである。過去の青少年問題協議会で答申された「青少年の性的自己決定能力を高めるための諸施策を積極的に展開する」という施策の基本方向はどのように実施されたのであろうか。そうしたこれまでの施策方針に対する評価をまずしっかりと行うべきである。そうした努力のないままで今回のような答申に基づいて条例を制定すること自体、本末転倒ではなかろうか。
第2に、条例制定の必要性が自己責任の論理で語られていることである。いわば“失敗した”子どもをどうケアし援助していくかという課題意識がほとんど欠落していることも今回の答申の特徴である。このことは、「対応のあり方」のところでは青少年の置かれている困難な状況に、一定程度理解を示しながら、結局のところ“指導の条例化”という法的な規制で“抑制や管理”が強調されることからも明らかである。
第3に、「青少年の性に関する健全な成長を阻害する情報」とは何を指すのかを明確にしておかないと拡大解釈が横行することになるという問題である。現在、東京都における性(教育)の政策が独断的で強引に展開がなされている現実を見たとき、こうした条例制定の動きを大いに憂慮するものである。
第4として、この答申と子どもの権利条約の整合性についての問題がある。子どもの権利条約第12条では意見表明権が明記されており、「自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する」ことが締約国の義務となっている。さらに「締約国は、この条約において認められる権利の実施のためのあらゆる適当な立法上、行政上およびその他の措置をとらなければならない」と規定している。つまり、青少年の性的自己決定に関わることがらを淫行処罰条例などによって青少年自身の意思や青少年の能力を無視する形で規制することは問題である。今回の答申には子どもの権利条約が定める子どもの最善の利益(第3条)、意見表明権(第12条)、適切な情報へのアクセス(第17条)、健康・医療への権利(第24条)、教育の目的(第29条)などの諸原則を尊重すべきであるとの認識に欠けているといわざるをえない。安全かつ相手を尊重した社会的および性的行動にかかわって、子どもの権利条約は子どもに「充分な情報にアクセスする権利を有する権利」(第17条)があることを明示しており、条例化をめざすならば、わが国も批准している子どもの権利条約の本旨と条項に即して具体化すべきである。
また答申は、「情報提供や性教育が重要であるが、他の方法を考えることも必要である」と、性教育をどのように発展させていくべきかについては、まったく踏み込もうとはしていない。
さらに危惧すべき点として、「3 青少年の性行動に対する行政の対応」における提言の内容がある。
まず「青少年に対する指導面では、保護者および関係者は、男女の性の特性に配慮」することを前提にしていることである。この「特性」とは何であろうか。少なくとも男性(女性)はこうあるべきだといった固定的な像に、青少年を当てはめるような指導は、男女共同参画社会基本法の趣旨に反しているといわなければならない。
つぎに保護者および関係者に対して、「性行動について特に慎重であるよう配慮を促すこと」「青少年と性に関する対話を深めるよう努めなければならないことを条例で定める」としているが、こうした親子関係や指導関係にまで踏み込み、条例化することは不適当である。そうしたとりくみができるように、当事者である青少年と教師や保護者、地域住民が協同しながら積み上げていくことが基本で、条例といった法的規制によって対処する性格の問題ではない。
さらに重要な問題点は、「性についての環境整備面では、青少年を対象として情報提供に関わる者は、いたずらに青少年の安易な性行動を助長するなど青少年の性に関する健全な成長を阻害する情報を発信することのないよう、自主的な取組により対応するよう努めることを条例で定める」としていることである。ここでいう「青少年を対象として情報提供に関わる者」とは、誰を指すのかが明らかにされていないことは問題である。
また「青少年の性に関する健全な成長を阻害する情報」として、何を想定しているのか、「健全な成長を阻害する情報」であるかどうかを誰が判断するのか、これは子どもたちの“知る権利”ともかかわって重大な問題である。性に関していえば、都教委に対する東京弁護士会「警告書」(2005年1月24日)に指摘されているように、東京都教育委員会がこれまで“指導”してきたきわめて政治的で恣意的な基準や判断に根本的な疑義と違法性が問われている現在、このことをあいまいにしたまま条例制定をすることが認められるべきものではない。
そもそも「自主的な取組」を基本とするのであれば、条例で定める必要はないはずである。
諮問された内容に対して、「1 インターネット・携帯電話からの有害情報に対する効果的な対策」「2 青少年の性に対する関わり方」についていえば、時代と子どものニーズにこたえる性教育の充実こそ優先されるべき課題であることは言うまでもないことである。しかし今回の答申が、その点については、まったく具体策を示していないのはきわめて残念である。
答申で示されたような内容を盛り込んだ条例制定によって、青少年をめぐる現在の深刻な状況はけっして打開できるものではないし、展望を見出すことはできない。
私たちは、青少年の性をめぐる深刻な現状に対して、条例による対応に委ねるのではなく、青少年の性の学習権、性の健康権を守り発展させていくことを基本に、真摯に取り組むことを心から呼びかけるものである。
日本の首都である東京都の首長として、今回の青少年問題協議会答申を白紙撤回し、改めて青少年の立場に立った提言をまとめ、具体的な改善の展望を切り拓くよう努力されることを強く要望するものである。
答申本文
http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9files/26ki/26tousin_honbun.pdf